株式会社にするとなぜ節税になるの?

いち:前回の続きになります。
法人化した方が節税になるというのはどういうことなのか、課税所得が一定額を超えないとペイできないのになぜ法人化する事業者が多いのでしょうか?

かなえ:う~ん、なぞなぞみたいですね。
見当もつきません。

い:不思議ですよね、実はその大きな理由の一つとして法人税が挙げられます。
ではまず個人事業者が支払う所得税と株式会社の支払う法人税とを比較してみましょう。

所得税税率

 

法人税税率

い:課税所得金額330万円を境に所得税法人税の税率が逆転しているのが分かります。
ここでは課税所得は、売り上げ-経費と考えてくださいね。

か:はい。
そうなると課税所得が330万円あるようなら株式会社にした方が良いということになるんですか?

い:今後も売り上げが伸びていくようであれば一つの目安にしてもいいと思いますが、所得税には控除があるのでもう少し複雑になります。
例えば課税所得が330万円だったの場合の計算をしてみましょう。

【個人事業の所得税】課税所得330万円×税率20%-控除427,500円=235,000円
法人税】課税所得330万円×税率15%=495,000円

か:実際は個人事業主所得税の方が安いんですね。

い:その通りです。
では課税所得が950万円になるとどうでしょう?
法人税の計算は800万円以下の部分をまず算出し、次に800万円を超えた150万円をもとに算出します。
そしてそれらをプラスします。

【個人事業の所得税】課税所得950万円×税率33%-控除1,536,000円=1,599,000円
法人税】(課税所得800万円×税率15%)+(課税所得150万円×税率23.2%)=1,200,000円+348,000円=1,548,000円

か:法人税の方が安くなりました。
ということは、950万円の課税所得があれば法人化した方がいいということになるんですか?
950万円の課税所得ってなかなかハードルが高いですね…。
これじゃあ会社にしない方がいいのかなぁ。

い:でも950万円の課税所得が見込めないのに法人化する企業は多くあるんです。
その理由の一つに役員のお給料である役員報酬の存在があります。
株式会社は、売り上げ−(経費+役員報酬を課税所得とすることができますのでずいぶんとお得になるんですよ。
先ほどの例に300万円の役員報酬がある場合、その計算をしてみましょう。
役員報酬にも別途所得税は課せられますのでそちらも併せて計算します。

【個人事業所得税】課税所得950万円×税率33%-控除1,536,000円=1,599,000円
法人税
役員報酬なし:(課税所得800万円×税率15%)+(課税所得150万円×税率23.2%)=1,200,000円+348,000円=1,548,000円
役員報酬あり:{課税所得(950万円-役員報酬300万円)×税率15%}+{個人所得税300万円×税率10%-控除97,500円}==975,000円+202,500円=1,177,500円

い:役員報酬も給与所得になりますからここに給与所得控除が適用されます。

給与所得控除

か:役員報酬が300万円だと、300万×30%+80,000円でさらに980,000円も引かれるわけですか…。
株式会社にすると節税になるという意味がよく分かりました。
でも法人の税金は他にも法人事業税や法人住民税があるんですよね。
一体どの位の売り上げがあれば株式会社にした方がいいということになるのか…、判断が難しいですね。

い:調べてみた限り専門家の見立ては課税所得550万円~800万円とかなり幅がありました。
事業によって差があるのだと思いますし、役員報酬や毎月の運営コスト、成長等を考えると確実なものはないのかもしれません。
試算はそこまで難しくはないと思いますので、今後の見込みを含めて自社に当てはめて一度試算してみることをお勧めします。

か:事業計画を立てたときに一通りの予算や経費は考えていますのでとりあえず試算はできそうです、やってみます。

い:法人化してから少ない売り上げが続くようだとは金銭的に厳しくなります。
そのような状況ですと法人化はデメリットにもなりますのでしっかり考えてみてくださいね。

か:今まで伺ってきて会社と個人事業には大きな違いがあることが分かりました。
一概に会社を設立した方がいいともいえないんですね。
持ち帰ってよく考えてみます。

い:目先のことに捕らわれない将来を見据えた視点で考えることが大切だと思います。
どちらを選ぶにせよ勇気をもって決断してくださいね!

 

 

 

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株式会社にするメリット・デメリットってなに?

いち:まずは株式会社を設立するメリットから説明していこうと思います。

かなえ:ぜひ聞かせてください!

い:では早速。
株式会社を設立するメリットとして考えられるのは以下の5点です。



【株式会社化のメリット】

社会的信用を得られる
・会社のみを取引対象にし、個人事業者とは取引自体をしない企業が少なくない。
・金融機関からの融資を受ける際に株式会社の方が審査を通りやすい。

有限責任
・経営破綻時の返済は出資の範囲内である。

社会保険へ加入できる
・経営者も健康保険、厚生年金に加入できる。
・健康保険には傷害保険や出産手当などの国民健康保険には無い保障がある上、第3号被保険者になれば年金保険料の支払いをしなくて良い。
※第三号被保険者とは厚生年金加入者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者、年収が130万円未満の方。
・個人事業者は健康保険や厚生年金に加入できないので将来の年金受給額に差ができる。

事業承継がスムーズ
・会社名義での取引は承継後も信用が継続するうえ、名義の書き換え等の手間も減る。

節税
・一定の売り上げ以上になると個人事業よりも会社の方が税率が低くなる。
・個人事業では経費にできないものが経費にできる。



か:株式会社にした場合に社会的信用を得られることが魅力的なのはもちろんですけど…、社会保険へ加入できることもありがたいですね。
個人事業だとけがをしたときに健康保険に比べて負担が大きくなったり、将来の年金受取額が少なくなるということになるんですよね。

い:その通りです。
また個人事業者の国民健康保険料を経費にすることができませんが、健康保険料は経費にできます。
これに限らず株式会社のみに認められている経費はたくさんあります。
経費にできるということは節税にもなりますね。

か:なるほどなぁ。
株式会社にすると節税になるというのも嬉しいですね。

い:そうですね、実は株式会社にする一番のメリットは節税にあります。
少し長くなりますのでまた改めて次回詳しく説明することにしましょう。

か:早くお聞きしたいですね。
でも今回のお話を聞いただけでも株式会社にした方がいいような気がしてきます。

い:確かに株式会社にするメリットは魅力的です。
でも残念ながらデメリットもあるんですよ、矛盾するようですがお金が関係してきます。



【株式会社化のデメリット】

細かなルールがある
会社法に従った経営を行わなければならない。
・定款(ていかん)や登記などに縛られる。

個人が会社のお金を自由に使えない
・個人事業では入ってきたお金を経営者が自由に使えるが、会社の収入は代表取締役であっても個人的に使うことはできない。

事務手続きが複雑化する
・人を雇わないと事業に支障が生じる場合がある。

コストが掛かる
・個人事業と比べて税率が高い。(一定の売り上げ以下の場合)
・株式会社の設立費用は20万円から30万円かかる。
・金融機関などの手数料が増える。

個人事業で認められてる特典を利用できない
青色申告特別控除
・青色事業専従者給与 ほか



い:デメリットといっても守らなくてはいけないルールがあったり、経営者であっても個人が会社のお金を自由にできないというのはむしろ会社にとってはいいことなのかもしれませんね。
明確なデメリットといえるのはコストが掛かるということだと思います。

か:はい、私もそう思いました。
運営コストがやっぱり気になりますね。
会社の運営コストというのは個人事業と比べてかなり違うものなんですか?

い:例えば法人である株式会社は法人税法人事業税さらに法人住民税を支払わなくてはいけません。
個人事業であれば所得税住民税がそれらにあたります。
法人事業税と法人税は所得がなければ支払わなくてもいい税金なのですが、法人住民税は毎月の支払いが必要になってきます。
法人住民税は所得金額×税率+均等割最低7万円で計算することになっていますが、均等割の最低7万円は例え赤字であっても毎月支払わなくてはなりません。
個人事業ですと法人住民税にあたる住民税の均等割は5,000円となっています。
7万円と5千円、結構な差額ですよね。

か:毎月7万円ですか。
事業を始めたばかりの身にはなかなか厳しい金額ですね。

い:金融機関をはじめ、個人では掛からない数々の手数料も発生してきます。
でも私は初期の売り上げが少ない中でこの法人住民税の均等割分を許容できるかどうかが会社化を考える一つのポイントではないかと考えています。

か:う~ん、確かに。

い:最後に株式会社を設立するメリット、デメリットを語るうえで最も重要な要素があります。

か:節税の事をまだお話ししていませんね。

い:はい、正解です!
次回はなぜ法人化した方が節税になるのか。
そちらを詳しく説明したいと思います。

か:楽しみにしています!

 

 

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個人事業と会社設立どちらで始める?

いち:かなえさん、私にご相談があるとか。
なにかお役に立てることがありましたか?

 

かなえ:以前からお話ししていた独立の件なんです。
資金の目途が立ったのでそろそろかなって考えているんですが、何から始めたらいいのかが分からなくて。

 

い:ついに決めたんですね。
そうですね…、まずは個人事業として事業を行うのか会社を設立するのか、そこから考えていきましょうか。

 

か:個人事業か会社かですか?
えー…と、何を基準にして考えたらいいのでしょう?

 

い:個人事業は所轄税務署に開業届を出せば開始できますので、すぐにでも事業を始めたいという方に向いています。
対称的に会社を設立するには会社法に基づいた設立手続きがありますので、設立には時間も費用も掛かります。
ルールに沿った設立が求められるので会社の方が信用されやすいといわれていますね。

 

か:開業は急いでいませんので、開業したてでもある程度の信用が付いてくるという方がいいです。
多少の手間があっても会社設立の方を選びたくなってしまいますね。

 

い:そうですね、信用を得ることが重要なのは間違いありません。
それではまず会社の説明から始めていきましょうか。
かなえさん、会社の種類ってどのくらいあると思いますか?

か:う~ん、株式会社と有限会社くらいしか思い浮かびません。

い:そうですね、おおむねその通りだと思います。
ではまず株式会社の説明からしましょう。
株式会社とは株式を発行して資金調達をし、運営していく会社形態です。
株式に付属する議決権を行使することによって経営に参加することもできます。
上場することができればより多くの資金を集めることができるので大きな事業がしやすくなります。(※議決権のない株式もあります)

か:株式会社は私にも馴染みがあります。
今働いている会社も株式会社ですし、周りもほとんどが株式会社に勤務していますね。

い:次は有限会社です。
実は有限会社は2006年の会社法施行時に制度が廃止されました。
ですので今は新たに有限会社をつくることはできません。
現在ある有限会社は会社法施行以前に設立されたもので正式名称は特例有限会社といいます。
現在特例有限会社は株式会社と同じ扱いになっています。

か:え?有限会社ってあまり聞かなくなったと思ったらもう作れないんですね。

い:はい、そうなんです。
その代わりといっては何ですが、会社法では持分会社というものが定義されました。
聞きなれないので初めて聞くという方もいらっしゃるかもしれませんね。

か:私は持分会社というのを初めて聞きました。
どのような会社なんですか?

い:持分会社とは、合名会社、合資会社合同会社の総称をいいます。
持分会社のメリットは、会社の持ち主と経営者が同じなので意思を反映しやすくスムーズな経営ができるということ、株式会社のような細かな設立要件がないので設立が比較的容易な上に設立費用が安いということです。
合同会社アメリカのLLC(Limited Liability Company)がモデルになっていますので日本版LLCとも呼ばれています。
アマゾンジャパン合同会社、アップルジャパン合同会社などが有名ですね。
株式会社が一般的な日本の感覚だと世界的企業がなぜ合同会社を選ぶのか疑問に思われるかもしれませんが、株式会社を規定した日本の法律に縛られずに経営ができるということも理由の一つなのではないかと思います。

か:あえて持分会社を選ぶ訳があるんですね。
持分会社それぞれの違いはなんですか?

い:各持分会社の違いは出資者の責任の範囲です。
合名会社は無限責任社員合資会社無限責任社員有限責任社員合同会社は有限社員で経営を行います。
ちなみにここでいう社員とは会社の従業員の事ではなくて出資者の事をいいます。

か:この場合の責任というのはどういう意味になるんでしょう?

い:無限責任社員は会社が負債を負った際に出資した額を超えて個人が全ての負債を負担しなければならないということになります、これは個人事業と同じです。
その点有限責任出資範囲内での返済でよいので、個人で大きな負債をかかえることがなくなります。
有限責任の株式会社や合同会社は万が一会社を潰してしまった場合に再起をするのが比較的容易になるといわれています。

か:有限責任というものがあるなら…、わざわざ無限責任の会社を選ぶ必要はないようにも思えます。

い:一理あります。
でも実は有限責任といっても実際は金融機関から代表取締役が会社の連帯保証人になることを求められることが多いので文字通りにはとらえられないんです。

か:そんなに甘くはないってことですね。
でも無条件での無限責任は怖さもあるし、持分会社を選ぶにしても合名会社や合資会社を選ぶ必然性が私にはないような…。
会社を設立するとしたら株式会社か合同会社かな。
信用を取るならば株式会社、設立費用の安さや手続きの容易さを取るなら合同会社という理解で合ってますか?

い:はい、そう考えていいと思います。
加えて株式会社は持分会社に比べて融資が受けやすいといわれていますので、将来の事業拡大を考えるのでしたら株式会社の方が何かと都合がいいのかもしれませんね。

か:会社を設立するのでしたらぜひ大きくしていきたいと思いますので、株式会社の方に気持ちが向いています。
株式会社の事をもっと教えていただけませんか?

い:はい、もちろんです。
しかし事業状況によっては会社の設立をするよりも個人事業から始めた方がいい場合があります。
株式会社にするメリットとデメリットを確認しながら、株式会社と個人事業を比較して解説していくことにいたしましょう。

はい、もちろんです。
しかし事業状況によっては会社の設立をするよりも個人事業から始めた方がいい場合があります。
株式会社にするメリットとデメリットを確認しながら、株式会社と個人事業を比較して解説していくことにいたしましょう。

 

 

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会社設立のサポートブログです。

会社はどうやって設立されるの?独立起業したい!個人事業から会社へ変更はどうしたらいいの?などなど会社設立に興味がある方向けにこのたびブログを書くことにしました。

行政書士いちと申します。
行政書士の資格を取得した折に会社法を学んでいますので法律面においても一定の知識があります。

会社というものに興味を持ったきっかけは友人の会社設立を手伝ったことでした。
当時の事を思い出すたびに今だったらもっとうまくやれたのにと後悔しています。
その時学んだことや改めて得た知識でめちゃめちゃ手間がかかり時間もかかる会社の設立をできる限り分かりやすくお伝えしていきたいと思っています。

はっきりいいますが会社の設立にはお金と知識が必須です。
簡単にできるという本やネットの記事をたまに見ますが、初めてやるとそうそう簡単ではないことを実感すると思います。

しかし恐れることはありません!

会社設立には定まった手順がありますので順序良く進めていけば会社は出来上がります。
許認可が必要な事業は要件をクリアする必要がありますが要件のクリアが手順に加わるだけです。

初めて見ると頭が痛くなる(かもしれない)、ルール満載の会社設立手順を分かりやすくお伝えするにはどうしたらいいのか考えました。
特に定款と登記が難しい…。
定款…、興味がない人にはもう読むことすら面倒くさいのではないでしょうか。

そこで思いついたのは一問一答方式でした。
設立から運営、終わりまでのやり取りをかなえさんといちというキャラクターを通してそれぞれカテゴリー別に書いていくつもりです。
どうぞよろしくお願いします!

【登場人物】

かなえ WEBデザインのベンチャー企業に勤める32歳の女性。在職7年目で独立を考えるようになり、3年間一生懸命やりくりをしてお金をためてきた。

 

いち  かなえさんとはSNSで知り合う。今では身近な法律相談をされる関係。某建築会社の顧問をしている行政書士